奇跡の杉

「アイコーボー、あいこうぼう」

と周囲の人達から何度も名前は聞いていた愛工房へ初訪問。

板橋区で初となる木造4階建ビルで知られる愛工房は、独自の低温乾燥で

「奇跡の杉」

とも呼ばれる、生きた杉の建材などを生み出す技術で知られています。

「輸入材は良くない」
「合板や集成材は良くない」
「無垢の国産材が1番だ」

と、建築の世界も木材には色々ありますが、良いと思われている無垢材もまた、加工によって品質はピンキリ。

無垢材とはいえ、ほとんどの木材は、高温乾燥で一気に木を乾燥させて、事実上

「死んだ木」

となっています。

昔の日本は、伐採後も自然乾燥で2年も3年も寝かせていましたが、今の時代は、ほとんど高温乾燥で処理されており、生きた木はほとんど建築では使われなくなってしまいました。

そんな中、愛工房の伊藤好則社長は、独自の技術の45℃の低温乾燥で、木の酵素を壊さず、生きたままの木を生み出すことに成功。

愛工房の杉板は、住宅に形を変えても生きたままであり、生きた杉が室内の

「空気」

を生産してくれます。

まさに天然の空気清浄機。

生きた木の中で生活する人は、体内の水分が生き返り、全身の細胞が蘇る。

生きた木は電磁波も遮断し、中にいるだけで体は緩み、精神も安らぎ、住む人の健康を守り、寿命を伸ばしてくれる。

これまで数々の材木を見て触れてきましたが、本当の意味で生きている木と出逢ったのが、愛工房が初めて。

触れるだけで、こんなに気持ちが良いなんて。

素足で床の上に立つだけで、足の裏からエネルギーが全身に入ってくる。

木が生きていることを本当に感じられます。

この愛工房を生み出した伊藤社長は、現在80歳。

驚くべきことは、73歳に、この4階建て木造ビルを建てた。

それも20年ローンで。

93歳に返済すると。

120歳まで元気に生きることを前提にしている伊藤社長は、70歳を過ぎたからと言って、人生の晩年とは微塵にも思っていない。

これからまた新たなステージとして活動するからと、自ら借金もして、その生き様を見せている。

僕の倍の年齢の大先輩ですが、これほどまでパワフルに信念を持って生きている80歳は初めて。

心から尊敬したし、とても良い刺激となった。

「もともとは、日本は命が中心の社会だったのに、この100年の間に経済が中心の社会となった」

「命が中心だから、昔の建物は人の命を大事にするし、木の命も当たり前に考えていた」

伊藤社長の言葉は、すべて心に響くもの。

また、とある大手百貨店が、この乾燥機の野菜用タイプを導入したく、愛工房を訪れたそうです。

愛工房の野菜乾燥機なら、酵素をそのまま、驚くほど野菜もフルーツも美味しく、これだと市場で大きく差別化ができる。

そんな野心に燃えた百貨店に伊藤社長は

「あなたのところは、自分たちで野菜作ってますか?農地を持ってますか?」

と聞く。

当然、販売メインの百貨店は、野菜は自ら作っておらず、どこかから仕入れた材料を加工して販売するつもりだった。

「流通業者や販売業者が儲けて、生産者が儲からない仕組みではダメなんです。だから乾燥機は生産者にしか設置しません」

と、どんな大手からもひくて数多でも、乾燥機を簡単には渡さない信念を持つ伊藤社長。

生産者が潤わないと、日本はダメになると。

いや、もう本当にぐうの音も出ないほど、見事なスタンスにあっぱれ。

こんな方がまだいるとは、本当に日本も捨てたもんじゃないし、我々世代も身が引き締まる思いです。

とはいえ、野菜乾燥機も、農家であれば誰でも設置できるわけでなく、日本ミツバチが生息しているエリア、当然周囲に農薬を使う農家がいないことなど、条件はとても厳しいもの。

八ヶ岳にも、野菜乾燥機と木の乾燥機があればなぁ…と夢は膨らむ。

もちろん、昔ながら自然乾燥が理想ですが、ある程度はテクノロジーとの融合もまた必要な過渡期の今。

日本の山を守り、再び地産地消の建築が当たり前となる社会を目指して愛工房も応援していきたいと思います。